記録・書類

介護記録の書き方 ― 「見たこと」と「そう思った理由」を分けて書く

介護記録で困るのは、書き方の正解が現場ごとに口伝えになっていて、指摘されるまで自分の書き方の何が問題なのか分からないことです。国は「こう書きなさい」という文例集を出していませんが、記録を残す義務と、記録が確認される場面ははっきり定められています。このページは、そこから逆算して「後で読み返す人が困らない記録」の書き方を、そのまま直せる形で整理します。

要点

  • 記録に「正しい文例」はありません。判断の基準は後から読む人(別の職員・家族・保険者)が、その場にいなくても状況を再現できるかです。
  • いちばん直しやすいのは、観察した事実と、書き手の解釈を1文に混ぜないこと。
  • 5W1Hは全部埋める必要はありません。いつ・誰が・何をした(何が起きた)の3つが欠けると、記録として使えなくなります。
  • 記録の整備・保存は運営基準上の義務です。保存期間は厚生労働省令で2年間ですが、自治体の条例でより長い期間(例:5年)とされている場合があります。

なぜ書き方が問われるのか(記録が読まれる3つの場面)

日々の記録は、書いた本人以外の人が、あとから別の目的で読みます。読まれ方が3通りあることを知っておくと、何を書けばよいかが決めやすくなります。

この3つに共通するのは、その場にいなかった人が読むということです。書き方の良し悪しは、文章のうまさではなく、この一点で決まります。

事実と解釈を分ける

記録で最も多い問題は、観察した事実と、書き手がそこから考えたこと(解釈・評価)が1つの文に溶け合っていることです。溶け合うと、読んだ人は解釈のほうを事実として受け取ってしまいます。

解釈を書いてはいけない、という意味ではありません。介護の記録では、職員がどう判断してどう関わったかも大切な情報です。問題は混ざることであって、書き分ければ両方書けます。

混ざりやすい3つの層(記録では分けて書く)
内容 書き方の目安
事実 見えたこと・聞こえたこと・測った数値 そのまま書く。誰が読んでも同じものを指す言葉で
本人の発言 利用者が言ったこと 要約せず、できるだけそのまま「」で引く
職員の解釈・対応 そこから考えたこと、行った対応 事実と別の文にし、「〜と思われたため、〜した」と根拠つきで

※ 様式や項目立ては事業所・サービス種類によって異なります。上の3層は、どの様式でも共通して使える整理です。

5W1Hの現実的な当てはめ方

5W1Hをすべて埋めようとすると記録が長くなり、かえって続きません。実務では優先順位があります。

  1. When(いつ):時刻まで。「午前中」ではなく「10:15」。あとで前後関係をたどれるかが変わります。
  2. Who(誰が・誰に):利用者と、対応した職員。他の職員が同席していればそれも。
  3. What(何をした・何が起きた):ここが記録の本体です。
  4. Where(どこで):転倒・体調変化など、場所が原因の検討に関わる場合は必ず。
  5. Why(なぜそうしたか):職員が通常と違う対応をしたときだけで十分です。
  6. How(どのように):介助方法を変えたとき、次の人が同じようにできるように。

逆に言えば、いつ・誰が・何をが欠けた記録は、どれだけ丁寧に書かれていても後から使えません。忙しいときはこの3つだけでも確実に残してください。

よくあるNG表現と改善例

架空の場面での例です。特定の利用者・事業所を指すものではありません。

直しやすい書き方の例
よくある書き方 何が問題か 改善例
不穏あり。傾聴にて対応。 「不穏」は解釈。何が起きたか分からず、次の人が同じ判断をできない 10:15 居室内を数分間往復して歩かれ、「家に帰らないと」と繰り返し話される。訪室し、椅子に座っていただき5分ほどお話を伺うと「そう、もう帰ったのね」と話され、その後は臥床して過ごされた。
食事量ムラあり。 量が分からない。経過の比較ができない 昼食:主食3割・副食5割摂取。前日は主食10割。「今日はあまり食べたくない」との発言あり。
ご家族に説明済み。 誰に・何を・どの手段で説明したかが不明。後で認識の食い違いが起きたときに使えない 16:40 長女○○様へ電話。本日の発熱(37.8℃)と受診の要否について説明し、明朝の様子を見て判断することに同意を得た。対応者:△△。
いつもどおり。特変なし。 「いつも」の中身が人によって違う。長期間続くと変化を見落とす 起床時から表情・食事量・排泄回数ともに前日と同様。バイタル:体温36.4℃/血圧128/76/脈拍72。
転倒したと思われる。 推測と事実が混在。事故の記録としては特に危険 14:20 居室で床に座り込んでいる状態を発見。本人は「ふらついて尻もちをついた」と話される。発見時、周囲に物の散乱なし。外傷は確認できず。(※事故報告の要否は別途、事業所の手順と保険者の様式で判断)

※ 体温・血圧などの数値は書き方を示すための例示です。実際の記録では測定値をそのまま記載してください。

個人が特定される情報の扱い

記録は開示を求められることがある文書です。他の利用者の氏名や、業務に必要のない家族の私的事情を書き込むと、開示の場面で困ります。記録に残すのは、そのサービス提供の判断に必要な範囲にとどめてください。

記録の整備と保存期間

記録を作り、保存することは、運営基準(指定基準)上の義務です。サービス提供に関する記録の保存期間は、指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第39条第2項などで、その完結の日から2年間と定められています。

ただし、指定基準は自治体が条例で定める仕組みになっているため、保存期間を国の基準より長く(5年など)定めている自治体があります。川崎市のように、指定基準の条例で5年としている例があります。また、介護報酬の請求に関する書類は、返還請求の時効との関係で別途5年の保存を求められることがあります。

つまり「2年でよい」と一律に判断するのは危険です。自分の事業所の所在地の自治体(保険者)の条例・要綱を確認することが必要です。

書き終えたあとのセルフチェック

本ページは公的資料の所在をご案内する情報提供です。記録の様式・記載項目・保存期間の具体的な取扱いは、サービス種類と自治体(保険者)の条例・要綱によって異なります。個別の判断は保険者および事業所の運営規程によります。

記録の書き方そのものより、「うちの自治体では保存期間は何年か」「この加算では何を記録に残すのか」で手が止まることのほうが多いはずです。介護AI司書 by PUBREF は、そうした確認先が分かれる疑問に対して、根拠となる公的資料の該当箇所を出典つきでご案内します。

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参照した公的資料

※ 記録の様式そのものを国が定めた文例集はありません。本ページの記載例は、上記資料が求める「確認できる記録」から逆算して編集部が作成した架空の例です。

次に確認したいこと

記録の書き方が整ったあと、実際に記録が見られる場面についてまとめています。

本ページは、国および地方公共団体が公開している公的資料の所在をご案内する情報提供です。法的助言ではありません。介護保険制度の取扱いは改正されることがあり、また自治体(保険者)ごとに運用が異なります。個別のケースの適否は保険者および担当ケアマネジャーの判断によります。最新の内容は必ず一次資料と保険者にご確認ください。